塔之沢の山深くに佇む深沢銭洗弁財天を守る篠崎宏至(しのざき ひろし)さん

金運や芸事にご利益があるとして知られている「深沢銭洗弁財天」は、箱根登山鉄道「塔ノ沢」駅上りホームの地続きに静かに佇んでいる。周囲には民家はなく、車も入らない山深い場所にあるにもかかわらず、境内はいつもきれいに清掃されて、生き生きとした花が添えられているが、この“堂守”の仕事に携わっているのは、篠崎宏至さん(昭和15・1940年1月3日~)である。

さて、箱根七湯の一つ・塔之沢温泉は、阿弥陀寺の開祖・弾誓(たんせい)上人によって発見されたと伝えられており、昔から大変人気の高い温泉場だった。「深沢銭洗弁財天」は、古くは塔之沢の早川渓谷の中にあった「弁天池」の近くに祀られていたというが、その弁天池は明治時代に行なわれた東電の施設工事で無くなり、財弁天はいつしか、忘れ去られていったようだ。

そして大正時代。塔之沢の宿に宿泊していた松井証券の創業者・松井房吉氏の夢枕に白蛇が現れ、弁財天をきちんと祀るように告げたという。その夢を不思議に思った松井氏は大正15(1926)年、現在の場所に石の祠を寄進した。以来、この地で「塔之沢福住楼」「ますとみ旅館」の人によって守られていたが、終戦直後からは、塔ノ沢駅ホーム近くで土産店を営んでいた宏至さんの父・数久(かずひさ)さんに引き継がれた。ちなみに境内にある「火伏観音」も、昔は早川沿いの岩場にあった洞窟のなかに祀られていたのだが、昭和20年代に深沢銭洗弁財天のすぐそばに社殿が作られ、移されたものだ。

「昔は塔ノ沢駅で乗降する人が多く、とても賑わっていましたが、バスの便が良くなるにしたがって、だんだん利用客が少なくなっていきました。父は、塔之沢の見どころの一つとして、弟(孝彰さん)と一緒に弁天様のPRに力を入れていた時期もあったようです」。

現在、「深沢銭洗弁財天」は、箱根の隠れたスポットとして人気が徐々に高まり、社殿も平成13(2001)年に建て替えられて、参拝者は増えているという。

 塔之沢で育った篠崎さんは、県立小田原高等学校を卒業後、小田急電鉄株式会社に就職。定年後、数久さんの想いを受け継ぎ、今日まで約30年間、このボランティア的な役割を担ってきた。篠崎さんは、塔ノ沢駅のホーム延伸に伴い自宅は小田原に移したが、毎日、約40~50分をかけて塔ノ沢に通っている。

「私が会社勤めをしている間は、父と妻(文江さん)がお守りしていました。こんなに静かな場所でお参り出来て本当に良かったと皆さんおっしゃいます。お参りにいらした方たちに気持ちよく過ごしていただき、また来ようと思ってくださることが大事ですからね」。

篠崎さんの役目は弁天様を守るだけではない。塔ノ沢駅は無人駅。駅に降り立った観光客などから道をよく尋ねられるという。

「外国人の方も多いですので、道案内の英語はマスターしましたよ(笑)。お参りに来られる方とお話ができるのも楽しいことです」。

「深沢銭洗弁財天」の境内に佇んでいると、聞こえてくるのは木々を渡る風のさやぎと、渓谷を流れる水の音、そして鳥たちのさえずり。そして、そこにコトコトと登山電車が通っていく。車が入らないからこそ保たれているこの静寂で秘境的な空間。漂う空気もどこまでも清々しい。

【深沢銭洗弁財天】

■アクセス:箱根湯本駅から箱根登山電車約3分「塔ノ沢」下車すぐ


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