箱根の名水で作った湯葉をメニューの主役にした田中久士(たなか ひさお)さん 湯葉丼直吉店主 

箱根湯本駅から徒歩約3分。国道1号から一本奥の通りに位置する「湯葉丼直吉」は、"箱根に行ったら立ち寄りたい美味しいお店“として連日、お客様の列が絶えない。湯葉丼の美味しさはいうまでもないが、早川の清流を臨む雰囲気のある古民家風の建物もこの店の人気に一役買っている。

「もともとここは、父(本一・もとかずさん)が昭和34(1954)年に旅館『雅光園』として建てたものなんです。その後、会席料理と日帰り入浴の『旬彩遊膳雅光園』として営業していました」と湯葉丼直吉店長の田中久士(ひさお)さん(昭和41・1966年4月6日~)。

「当時、板長と相談しながら月替わりで献立を考えていましたが、小田原魚市場が近いので新鮮な魚は手に入りますし、野菜なども近隣の地域から仕入れられます。でも箱根に特化した食材があまりないことに気が付き、食で観光客の方々におもてなしと、楽しみを提供できないだろうかと日頃考えていました」。

ある日、車を運転している時に、前を走っていた箱根登山バスの後ろに掲出されている「生麩・ゆば 箱根角山)」の広告が目に入った。箱根で湯葉を作っているところがあることを初めて知って、早速連絡。大平台の名水で作られていること、同地に湧き出る「姫の水」にまつわるエピソードなど面白い背景を聞いて、会席料理のメニューに取り入れることにした。

「当初は、湯葉は刺身や吸い物などで使っていたのですが、湯葉を卵とじにして〆のご飯としてお出しすると、『美味しい』というお客さまからの声をいただくようになっていました。そこで、湯本駅前おみやげ店の「みつき」の2階に、手軽に食べられる丼の形にした「湯葉丼」の専門店をオープンさせました」。

やがて「湯葉丼」はその名前の珍しさや健康志向の時流などにも乗って、テレビ番組や雑誌にも多く取り上げられ、店の前には行列が並ぶようになった。しかし、平成21(2009)年度に箱根湯本ターミナル整備事業が始まり、国道一号立体横断施設が「みつき」の場所に架かることになった。

「ようやく波に乗ってきた湯葉丼のお店を一時的にでも休業する訳にはいかないと考え、3~4年ほど閉めていた『旬彩遊膳雅光園』の建物をリフォームして再スタートしようと決めました。

私は、旅館だった頃のこの建物で育ちましたので、子供のころの思い出も沢山あります。仕事場でありながら家でもあったわけです。使わないでいると朽ちていくのが早いことに心が痛んでいましたので、もう一度この場所をお客様と従業員でにぎやかなお店にしてみたいと思ったんです」。

「直吉」という店名は、箱根の木工物産の製造や輸出を手掛けていた祖父・直吉さんの名前に由来するという。

 いま田中さんはお店のことだけでなく、箱根全山についても盛り上げていきたいと考えているところだ。

「他の仲間もそうだと思いますが、箱根は訪れる方たちにとって“オアシス”というか、“憩いの場所”であり続けてほしいと心から願っています。先人たちが創り磨きをかけてきた事に感謝して、この「箱根」というブランドを大切に守りながら、いま目の前に自分たちでできることは何かと常に考え活動して、次の世代に繋げていけたら素晴らしいと思っています」。

【湯葉丼 直吉】

■〒250-0311神奈川県足柄下郡箱根町湯本696

■電話:0460—85—5148

■アクセス:箱根湯本駅より徒歩約3分(早川沿い)。