湖畔にミツバツツジを植え続けた岡本光代(おかもと みつよ)さん レストラン「樹の館」オーナー

芦ノ湖畔にある「富士箱根伊豆国立公園50周年記念広場」内や桃源台から湖尻に向う道路沿いには、4月中旬頃になると、深いピンク色のミツバツツジが咲き競う。箱根のツツジの見頃は、例年、5月の連休前後だが、ミツバツツジの開花はそれより一足早く、春を待ち望んでいた早春の湖畔を鮮やかに彩っていく。箱根には自生のミツバツツジも見られるが、これらのミツバツツジの大半は、桃源台港近くの「レストラン樹の館」のオーナー・岡本光代さん(昭和13・1938年2月3日~)が7年かけて自費で植えたものである。1年に100本、その数は700本にのぼる。なぜ、岡本さんは植え続けたのか。

「4月になると、湯本あたりから桜が咲き始めて、箱根は春の装いになっていきますが、この湖畔は、まだ冬景色そのまま。まったく色のない、寒々とした風景なんです。『桃源台』という名にふさわしい彩りが欲しいな、と考えていた時に浮かんだのが、毎年、早春に京都に旅行に行ったときに足を延ばした六甲の麓で目にした、ミツバツツジが一斉に咲き誇っている風景でした」。

ちなみに「桃源台」という呼称は、『箱根山の近代交通』(加藤利之著・かなしんブックス)によると、昭和25(1950)年、箱根観光船が箱根町~湖尻間に定期航路を開設する時に、当時、まだ開けていなかった静寂な湖尻が俗世間から離れた桃源郷(中国の詩人・陶淵明の『桃花源記』に描かれている理想郷)を思わせる地だったので、新桟橋の名を「湖尻桃源台(現・桃源台港)」にしたのだという。

「植栽は10年続けたいと思っていたのですが、いろいろ難しい規制があって、途中で断念しました」。

 植えた700本のうち、立ち枯れになったものや刈られてしまったものも多いというが、残ったミツバツツジたちは、岡本さんの想いに応えて、毎年、見事に花を咲かせている。

 さて、岡本さんが強羅にある「白百合学園」を卒業後、故郷の湖畔にレストランを開くまでの話も興味深い。

「母(千代さん)が箱根神社の奉賛会に協力していたこともあって、巫女としてお手伝いしたこともあるんです」。

また、知り合いに頼まれて、近隣の建設会社にしばらく勤めていたが、東京に出たいと考えた岡本さんは、地元の大場庄之助氏の紹介で東京の会社に就職。たまたま友人に誘われて銀座に遊びに行った時に声をかけられて、当時、銀座の高級クラブで働くことに。

“声をかけられた”というその言葉にはひどく納得する。樹の館の壁には岡本さんをモデルにした油絵が架けられているが、本当に美しい。その後、人の勧めで独立し『光代』というクラブのオーナーになった時代の写真も拝見したが、非常に品があり、魅力的である。

「箱根に戻ってきたのは、50歳の時。これも、そろそろ帰ってきてレストランをやりなさいという母の言葉があったからなんです。これまでのどの道も私が自分から選んだわけではないのですが、流れといいますか、人のつながりの不思議ですね」。

 樹の館の周りには、ミツバツツジをはじめ、ムスカリやミヤコワスレ、アヤメ、ヤマブキなどがかわいい花が四季折々に花開く。店内には蘭の花が香り、窓の外には海賊船が行き交うその風景は、まさに、桃源郷の片隅に佇むレストランのようだ。

【レストラン樹の館】

■〒250-0522神奈川県足柄下郡箱根町元箱根164

■電話:0460‐84‐5545

■アクセス:箱根湯本駅から箱根登山バス(T路線)約34分「桃源台」バス停下車、徒歩約1分。