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柔軟な心と類まれなる企画力で美術館に育てていく岩田正崔(いわた まさたか)さん 箱根ガラスの森美術館館長

仙石原にある「箱根ガラスの森美術館」に一歩足を踏み入れると、四季折々、庭園には美しい花が咲き乱れ、クリスタルガラスのオーナメントが陽を浴びてキラキラ光り、本場イタリア人歌手によるカンツォーネが高らかに流れてくる。美術館、レストラン、ショップなど、ヨーロッパの貴族の館を思わせる建物が点在するこの異国情緒溢れる空間は、まさに非日常の世界そのものだ。

 そして、この美術館を何より輝かせているのは、ヴェネチアン・グラスのコレクションの素晴らしさはもとより、平成8(1996)年に開館以来、毎年展開される魅力的な企画展である。それを大きなエネルギーと明晰な頭脳、そして柔軟な心で牽引し、集客数箱根随一、そして、リピーター率50パーセントという国内でも唯一無二の人気美術館に育ててきたのが、岩田正崔館長(昭和14・1939年7月6日~)である。

 岩田さんは、大磯で生まれ育った。父方の叔父はピアニスト、叔母はクラッシックバレエをやっていたという。「そのせいか、戦時中のもののない時代に、お芋を食べながらバイオリンを習っていました」。そして大磯の照ヶ崎海岸で釣り堀やヨット、ボートなど幅広くレジャー関連の仕事をしていた祖父の亮蔵さんのところに行っては、海辺でよく遊んだものだった。「箱根ガラスの森美術館」の館長としての鋭い芸術的な感覚や経営的才能そして、大海原のようにいろいろなものを柔軟に受け入れる岩田さんの原点は、この頃培われたのではないだろうか。

 岩田さんは、慶応義塾大学を卒業後、大手百貨店に就職した。「入社したころは、来店した子供たちに風船を渡す仕事もしていました。大人の背丈で上から渡すのではなく、目線を子どもに合わせるんです。子供たちは笑顔になる。そこで、お客様の目線に合わせることの大切さを学んだんです」。

 余談だが、箱根ガラスの森美術館のスタッフの皆さんは、礼儀、言葉遣いも正しく、対応はいつも変わることなく丁寧だ。それは、“お客様の目線に合わせる”という岩田さんの姿勢がそのまま反映されている。

岩田さんは百貨店勤務時代には、販売促進部部長として、洋画、日本画、写真、浮世絵、陶芸、ガラス、盆栽、能、お茶など、500件余の企画展を展開した。失敗は許されない。そのため、綿密に情報を収集し、赤字を出さないために様々な工夫と努力を重ねた。

 そんなある日、都内を中心に料亭、高級レストランを経営する実業家の故・鵜飼貞男さんから、「ヴェネチアン・グラスの美術館を創るので、館長を引き受けてくれないか」という一本の電話が入った。岩田さんは鵜飼さんとは、まったく面識がなかった。鵜飼さんの真意を測りかねた岩田さんは、しばらくそのままにしていたという。恐らく鵜飼さんの耳には、岩田さんの類まれなる企画力や常に時代を捉えて話題を呼ぶ仕事ぶりがどこからともなく耳に入り、“岩田さん以外に館長はいない”と確信されたのだろう。度重なる鵜飼さんの誘いとその熱意に、岩田さんは心を決めた。そして、箱根の建設場所に赴き、生い茂っていた樹木が切り拓かれて正面に大涌谷の噴気が目に入った時に、「ガラス工芸は炎の芸術。炎の芸術を見せる場として、これほどふさわしい場所があるものだろうか」と、心が揺さぶられるほどの強い感動を覚えたという。

 山深い箱根と水の都ヴェネチア。一見、まったく共通項がないように見えるが、大涌谷を借景とした雄大な景観は、“ヴェネチアン・グラスの美術館はここにあるべきだ”と、最初から約束されていた地のようである。箱根ガラスの森美術館は私立美術館であり、公的支援はない。「お客様に“また行きたい”と思ってリピーターになってもらうことが一番大事」と、岩田さんは大きな視点に立って、さらに魅力的な美術館になるべく日々想いを巡らせている。庭園も岩田さんの発想で訪れるたびに華やかに楽しく変わっていき、お客様の心に生き生きとした精気を与え続けている。

【箱根ガラスの森美術館】

■〒250‐0631神奈川県足柄下郡箱根町仙石原940-48

■電話:0460-86-3111(箱根ガラスの森美術館)

■アクセス:

箱根湯本駅から箱根登山バス(T路線)約21分「俵石・箱根ガラスの森前」下車すぐ。 強羅駅から観光施設めぐりバス(S路線)約17分「箱根ガラスの森」下車すぐ。

新宿駅から小田急箱根高速バス約120分「箱根ガラスの森」下車すぐ。

http://www.hakone-garasunomori.jp


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