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わかりやすい看板づくりに取り組んだ山本祐輔(やまもと ゆうすけ)さん 株式会社コミュニケーションプロジェクト代表取締役

平成16(2004)年3月、小田急箱根グループは、バラバラだった箱根登山電車、箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、箱根海賊船、箱根登山バスの駅名表示や案内サインなどを“美しい観光地づくり”の一環として統一したデザインに整備する「箱根環境デザイン計画」に着手した。そのデザイン担当を担ったのは、SMBC VIシステム開発など数多くのアイデンティティ計画を手がけてきた、株式会社コミュニケーションプロジェクト代表取締役・プロデューサーの山本祐輔さん(昭和20・1945年11月16日~)である。

「このデザインで最も大事なのは、電車、船、ケーブルカー、ロープウェイ、バスという様々な会社で構成されている“箱根小田原グループを束ねる強いアイデンティティ”である。芦ノ湖、ススキ草原、大涌谷などの具象的なものをデザインするとしたら、それは偏重したものになり、グループ結束の促進にはならないだろう。“箱根を伝えるもの”“箱根を象徴するもの”で仕上げたい」と、幾度となく箱根を探索しつつ、資料や写真を眺めながら熟考を重ねたが、イメージはなかなか見えてこなかった。

いろいろ思いを巡らせていたある日、湯本にある箱根町立郷土資料館を訪ねた。そこで、江戸時代から伝わる伝統工芸品「箱根寄木細工」のいくつかある木材サンプルの中の一つ“あかぐす”の色に釘付けになった。その色は、まるで山本さんに微笑みかけているようであり、それが箱根寄木細工をイメージした看板サインの誕生のきっかけとなった。

「赤でもない、朱でも、茶でもない樹肌が夕日に輝くその色。澄んだ空気の中でキラキラ輝くひめしゃらの赤膚は、それはそれは美しいと聞いています。その“ひめしゃらの夕日の色”と“あかぐす”を重ねてみよう。“輝き”と“温もり”を融合させよう。永遠に箱根と共に在るために、色に、いのちを呼び覚まして見ようと。

この『赤茶色』を箱根に蘇生させる。『陽』を取り戻す。この時、そう強く決意しました。箱根の大地と気が求めるのは陽光であり、憩いと安らぎの灯だと感じたのです」。

「恐らく、箱根は赤系ではなく、グリーンやブルーだと考えられていた方もあったと思いますが、統括会社(小田急箱根ホールディングス)のご理解とバックアップもあって、ほぼ私たちの考え方にそって進めさせていただきました」。

“箱根に光と明りを点す…。寄せ木の色とこころ。優しくお迎えし、わかりやすくご案内し、箱根らしくお送りする…。”

小田急箱根の環境サインは、「環境と伝統を意識したデザインは、おもてなしの気持ちを具現している」として、平成26(2014)年度グッドデザイン賞を受賞。約15年前に箱根に登場した看板たちは、昔からそこにあったかのようにいま、箱根の風景にすっかりなじんでいる。

 最後に山本さんが環境サイン制作にあたって記した一文を紹介したい。

「箱根は遠くていい。距離は近くとも、心のふる里だから。

子供も、異国の人も大事だが、私たちの主人(あるじ)は、喜びも悲しみもくぐり抜けてきた友人たちなのだ。

箱根に灯火(あかり)を点し続けよう。

箱根には水も、山も、森林も、石もある。大地は光を求めている。

『旧きよきもの』を、その『育む姿』を見てもらおう。

そうでないと、歴史はただの残骸になるだろう。

観光と娯楽とは違う。観光とは、その姿と営みの陰影を感じてもらうことだ。

だから、僅かな知恵でそれを加工してはならない。箱根は観光の元祖ではなかったのか?

箱根は、爽やかな平野ではない。地平線の見える海岸でもない。厳しさと安らぎの里である。

その基軸が揺らぐと、箱根は単なる温泉娯楽地となる。

私たちは事業を営んでいる。だから結果が求められる。だが、それ以上に称賛されるべきことは『人々に安らぎを与える価値』、その『優しさと誇り』であることを忘れてはなるまい。

箱根は遠くていい。距離は近くとも、心のふる里だから。」


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